Profile
塩尻かおり(Kaori shiojiri)
龍谷大学 農学部/農学研究科 准教授
専門分野:化学・植物生態・環境、植物保護学、昆虫科学
キーワード:かおり・植物免疫・生物間相互作用・植物間コミュニケーション・害虫制御
受賞:日本農学進歩賞・日本応用動物昆虫学会奨励賞・日本生態学会宮地賞・守田科学奨励賞・京都大学たちばな賞
Mail:kaori.shiojiri@agr.ryukoku.ac.jp
「メッセージ」
植物や昆虫の生態を研究する上では、思いがけないことが起こったときに最も楽しさを感じます。もちろん、「こうに違いない」と思って研究を進めたことが、推測通りに証明されるとうれしいものです。しかしその推測が外れて、もっとすごいことを昆虫や植物が行っていることがわかったときの方が、生態系の奥深さや複雑さを感じられ、研究の醍醐味を感じられます。
あなたも「なぜだろう?」と思うことがあれば、当初の好奇心を大切にしながら、自分で調べたり、詳しい人に聞いたりして、不思議の謎に迫ってください。
「植物なのに人間らしい?」
植物間コミュニケーションの話ですが、実は植物の親子間ではその匂いが数値的に近いことがわかってきました。人間の親子のように遺伝という血縁認識が植物でも行われているのかもしれません。血縁関係が薄い者同士のコミュニケーションと比べて親子間のコミュニケーションは強いと言われています。植物でも親子愛が存在するって面白いなと思いました。
さらに、この植物間コミュニケーションですが、同じ種間で行われることはもちろんですが、他の種との間にも行われていることがわかってきました。セイタカアワダチソウとマメで上手くいった例ですが、セイタカアワダチソウが被害を受けたときに発する匂いがマメに有効に働きました。これって私たち人間に置き換えると、ヒトとイヌが意思疎通を図るということです。でも、動物と植物とで違うのは、コミュニケーションに明確な意図があるのかどうか。植物には明確な意図をもって匂いを発しているかは判明していません。現在考えられるのは、セイタカアワダチソウが被害を受けた時に出た匂いをマメが「立ち聞き」して自分の防衛反応を刺激しているという可能性です。植物も「立ち聞き」というまるで人間のような行動をするのです。こうしてよく植物を研究していくと、植物のなかに人間らしさが感じられるのが面白いですよね。
「虫の知らせで無農薬を」
この「植物間コミュニケーション」の研究を進めていくと、農薬を必要としない未来が実現できるかもしれません。植物自身を強くさせる匂いを人工的に植物に受け取らせることで、農薬を使わなくてもよい強い植物を育てることができます。農薬を使わずとも、安心で安全な野菜がみなさんの食卓に並ぶということです。さらにこの研究を日本国内だけに留めず、農薬を買えない、または安価だけど危険な農薬しか使えない発展途上国にも活かしたいです。世界どこでも農薬を使わないで、安心安全な野菜だけが流通する未来を創っていきます。そんな未来を、好奇心旺盛な学生さんと迎えたいです。私自身この研究を始めたきっかけは生き物への好奇心でしたから。